●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2016年5月 突然現れた黄金週間
4月末、妻と一緒に近くの大型スーパーに出かけた。妻が「もうすぐ、子供の日なのね」とつぶやいた。妻の視線の先を見ると、壁に沿ってうずたかく積まれたオモチャの山が目に入った。
韓国でも、5月5日は「子供の日」。この日、子供はオモチャのプレゼントをもらえるという慣習がある。韓国の子供は、クリスマス、誕生日と合わせ、年に3度、オモチャをもらえる機会があるわけだ。
今年の5月5日は木曜日なのだが、韓国政府は4月28日の閣議で6日の金曜日を臨時休日にすると決めた。突然、4連休が出現し、韓国の人々は大いに戸惑った。「そんな急に言われても、旅行計画など立てられない」とぼやく人もいた。それでも、旅行会社には問い合わせが相次ぎ、6日はホテルやゴルフ場の予約が相次いだという。
子供を抱える親は複雑だ。突然の休みで学校は大慌て。何しろ、年間の教育日数が決められているので、ここで1日休むと、どこかで1日勉強する日を作らなければいけない。きっと今年の夏休みか冬休みが1日短くなるのだろう。知り合いの教育関係者は「政府は、全く何も考えていない」と言って怒っていた。
ただ、今回の臨時休日指定は、内需による経済効果を狙った韓国政府の戦略が背景にあると言われる。韓国は貿易立国で、外需に大きく頼っている。ゴルフ嫌いと言われてきた朴槿恵大統領も、4月末の韓国人記者団との懇談会で、政府幹部たちのゴルフ利用を止める考えがないことを強調するなど、内需の拡大に躍起になっている。
今回も、韓国政府は6日の高速道路利用料を無料にすると発表。6日は韓国プロ野球の入場料も半額になると聞いた。
今年、韓国のソウルにドーム球場が初めてお目見えした。ところが、この球場、「通路が少なくて、客席からトイレに行きにくい」とか「客席が狭い」とか、苦情が絶えない。知り合いのプロ野球関係者に聞いてみたら、「ああ、あれは最初、屋外野球場として設計されたものを、急にドーム化したんだよ」と言われた。
理由を聞くと、東京ドームで開かれた国際大会で、韓国代表チームが活躍している姿を見たソウル市幹部が興奮し、「我が国にもドーム球場を造れ」と命じたという、本当なのかどうなのか、疑わしいエピソードを教えてくれた。
韓国の人々のこうした行動を行き当たりばったりと捉えるか、思い立ったらすぐに行動に移す機敏な動作と考えるのか。慎重ではないから失敗も多いし、迷惑を被る人も出る。一方で、素早い動きは、ビジネスで商機を逃さない重要な要素だとも言える。要はお国柄。日本とはまた違った、韓国の一つの特徴だと思って、大いに楽しみたい。
(朝日新聞社 牧野愛博)