●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2017年8月 初の女性外相
韓国で史上初の女性外相に就任した康京和氏の人気が高まっている。もともと、KBS(韓国放送公社)の国際放送で活躍。通訳として政界とつながりを持ったが、金大中政権で力量を認められて外交官になった。その後、長く国連で活躍した人だ。
www.aarjapan.gr.jp 私はまだお目にかかったことはなく、その人物評価はすべて人づてだが、私が好きになったのが、その白髪の目立つヘアスタイルだ。
実は私も最初にソウルに勤務した40代初めごろから白髪が目立ち始め、今や子どもから「お父さんは白髪が7割」と言われるほどになってしまった。家族は、盛んに「白髪染めをせよ」と迫るが、生来ずぼらな性格のため、面倒くさくてそのままにしている。「ロマンスグレーを目指すのだ」などと、およそ説得力のない反論を試みるが、私の魂胆は家族に見抜かれ、あきれられている。
韓国の場合、ほとんど自然と言って良いほど、白髪染めがポピュラーになっている。政治家も、歴代大統領はまず間違いなく、髪を染めていた。というか、就任当初で力あふれた政治家像をアピールしたいときは、黒々と髪を染め、退任間近になって「これからは国父でも気取ってみようかな」ということになると、突然白髪に戻すケースもあった。
二重まぶたにしたり、シミ取りをしたりするのも全然違和感のないお国柄だから、白髪染めぐらい、当たり前の世界なのだ。
そんな社会だから、康京和外相の、ナチュラルというか、自然そのままの白髪スタイルは、私には大変すがすがしく映った。
ただ、その一方でちょっと違和感もある。康外相が通訳として働いたほか、長く国際社会で活躍したことは前述した通りだが、このため、大層英語がお上手だ。だからなのか、とにかく会談も全部英語で押し通すのだという。
かつて英語の通訳をやったことがある韓国政府の知人がビールを飲みながらぼやいていた。「英語がいくら上手だと言っても、国益をかけた会談の場で母国語を使わないのはちょっといただけないよ」。確かに、会談でもし不都合が生じた場合でも、「それは通訳が私の発言を正確に訳さなかったからですよ」という言い訳もできる。
ただ、別の韓国政府の友達がこうも言っていた。「いやー、彼女の前任者の方がもっとひどかったよ」。この前任者は用意周到な性格で、何度も会談の練習をしたうえ、応答要領通りの会話をするのが「売り」だった。この友達はこう話す。「話し言葉と書き言葉は違うじゃないか。あの人の場合、書き言葉通りに話すから、通訳はいつも目を白黒させていたよ」。やっぱり、今のところは、今度の外相の方が良さそうだ。
(朝日新聞社 牧野愛博)