●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2022年10月
統一教会
9月、ソウルに出張した。統一教会の取材だった。ソウルから2時間足らず、京畿道加平郡の静かな山間部に教団施設群があった。白い宮殿、病院、高齢者のためのサービスセンター、レストラン、そして、修練施設。
1990年代の最盛期には、毎週週末になると、1日あたり1万人以上の信者が集まり、サッカーコートが丸々入るような場所で、「先祖解恨(チョサン・ヘウォン)」という祈祷を行ったという。第1代から400代以上にまでさかのぼり、父方や母方などの先祖の霊を救う儀式を行う。その儀式は今も続いているという。最初の1代から7代までの先祖を救う儀式に70万ウォン(約7万円)、それ以降は7代ごとに5万ウォン(約5千円)を支払うという。でも、それは韓国人信者の場合で、「日本人はその10倍は支払う必要がある」という元信者の話も聞いた。
韓国には「シビルチョ(十一祖)」という言葉がある。韓国は、東洋では、フィリピンに次ぐキリスト教大国だ。カトリックとプロテスタントを合わせた信者は、全国民の4割にあたる2千万人を超えると言われる。カトリック信者の知人は「シビルチョは基本。要するに年収の10%を教会に献金するという意味だよ」と教えてくれた。ただ、ローマ教皇庁を総本山とし、各教区などが教会を支援し、神父の給与も支払うカトリックの場合、シビルチョはそれほど厳しくない。「毎年初め、自分が通う教会の事務局と話し合う。子供が受験だとか、会社の給与が減ったなどという事情があれば、今年は10%ではなくて、3%にしましょう、といった話ができるんだよ」という。プロテスタントは、各教会ごとの独立会計などで、割と厳格に「年収の10%献金」が守られているという。
統一教会の信者だった韓国人の男性は「統一教会では、シビルチョは基本中の基本。それ以外に色々な献金の要求が来た。給料の半分とか、全額近くまで支払う人もいた」と語る。「なかには、不満を漏らす人もいた。でも、それは心にサタンが住み着いたからだ、と教えられた」という。みな、必死で献金するので、クレジットカードを持たない信者はいなかったという。
統一教会側は記者会見で「高額かどうかは、人それぞれで違う。信者が納得していれば問題はないはずだ」という論法を取っていた。元信者の男性は「教会の内部にいたら、何も見えなくなる。残っている信者が可哀そうだ」と話した。韓国のカトリック信者の知人は「自己犠牲を強いたり、高額の献金を強いたりして、果たして宗教と言えるのか」と憤慨していた。
統一教会の施設群は壮麗だった。信者たちが必死の思いで献金した結果だと思うと、なんともやるせない気持ちになった。
(朝日新聞社 牧野愛博)