●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2020年1月
ウラジオストク観光
12月中旬、ロシア極東のウラジオストクを訪れた。国連の制裁決議によって、北朝鮮労働者を本国に送還する期限が12月22日に迫っていたからだ。
取材の合間、街を歩くと韓国語と中国語の宣伝文句が目立つ。中国人の観光客は元々多かったようだが、今年に入って、日韓関係が悪くなったため、日本行きをやめてウラジオストク観光に切り替えた韓国人が結構いるのだそうだ。現地の韓国人に聞いたら、「日本観光からの切り替え組」が5人に1人くらいいるという。
ちょうどクリスマスシーズンだから、若いカップルも目立った。取材が終わって、雰囲気の良いバーで1人、ワインを楽しんでいたら、横に韓国人の若いカップルが座って大声で話し始め、すっかり興ざめしてしまった。
ただ、実際に観光を楽しんだ韓国人たちにとって、ウラジオストクの評判はそれほどでもないらしい。現地の韓国人は「彼らは大体、市内をブラブラして、カニを食べて、それで終わり。2度とは来ないという人がほとんどですね」と言っていた。
ウラジオストクの開発が本格的に始まったのは19世紀。旧ソ連時代は軍港として使われたため、長らく閉鎖都市だった。学生時代の私はシベリア鉄道に乗ったことがあるが、当時はウラジオストクから乗車できず、飛行機でハバロフスクに行って乗車した記憶がある。
そんな不自由な歴史もあって、ウラジオストクには未開発の場所が多い。近年はロシア政府も極東開発に力を入れているし、街の大通りは全面的に舗装が新しくなるなどしているが、まだまだ足りないところも目立つ。現地のロシア人も「ウラジオストクを欧州の主要都市と同じだと思われると、ちょっと違うと思う」と語っていた。
そこで、現地の人たちが心配しているのが、来年から期待される日本人観光客ブームの行方だ。来年早々、日本の航空2社が直行便をウラジオストクに飛ばすとあって、現地では「日本人がたくさん訪れてくれるのではないか」という期待感が広がっている。同時に、日本で流れている「日本から2時間半で行けるヨーロッパ」というキャッチコピーにちょっとした不安も感じるのだという。
現地のロシア人は「ウラジオストクは旧日本軍が駐留した歴史もあるし、シベリア鉄道の出発点でもある。近くのウスリースクなどには朝鮮族のコミュニティーもあるから、様々な旅行が楽しめると思う」と語る。
ただ、日本語をしゃべることができるガイドが不足していることや、日本によるウラジオストク観光の研究が十分でないことから、観光客の様々なニーズに応えられるかどうか、ちょっと心配なのだという。
「せっかく来ていただいたのに、1度でもう十分とは言われたくないんです」と現地のロシア人は語っていた。
2020年に日本でウラジオストク観光のブームが起きるよう祈りたい。
(朝日新聞社 牧野愛博)