
●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2025年11月
陣営の論理
「陣営の論理」という言葉がある。私が10年ほど勤務した韓国でよく使われる言葉だ。様々な主張や意見の是非について考える時、その内容ではなく、主張している人が属している団体や組織をみて判断することを意味する。
防衛省の諮問会議が最近、自衛隊の原子力潜水艦の保有について検討することを間接的に勧める報告書を発表した。私は朝日新聞デジタルで「読み解く 世界の安保危機」という週2本の連載コーナーを持っている。日本人にあまりなじみのない原潜について解説してもらおうと考え、20年来の知人の元海将(元海自潜水艦長)にお願いをして、話を聞いた。知人は、原潜と通常動力型潜水艦の違いや、原潜を導入する場合に必要になるコスト、原潜導入論が浮上している背景などを丁寧に語ってくれた。私はそれをまとめて配信した。
世の中で関心を持つ方が多かったのか、よく読まれた。そのなかですごく残念なことが一つあった。私の母校でもある大学の名誉教授という方がSNSにこんな投稿をした。要約すると、「朝日新聞は原発反対だから、原潜導入にも反対。でも、最近の世の中の流れでしぶしぶ、インタビューで取り上げた。でも、それでもネガティブ」という内容だった。
これこそ、冒頭で紹介した「陣営の論理」というものだろう。「私が朝日新聞の記者だから」という根拠だけで、論理を展開している。そもそも、インタビューに選ぶテーマは私が自由(勝手)に決めている。会社から指示されたことは一度もない。ただ、私は、朝日新聞は軍事や安全保障分野を十分報じてこなかった歴史があるので、その足りないところを読者に提供したいという思いは強い。だから、憲法論よりも軍事や世界政治の実態をそのまま伝えることを念頭に置いている。(原稿は必ず、取材先に見せて確認してもらう)
私の主張はおそらく、朝日新聞の社論とは相当違うだろう。自由気ままな取材活動といい、こうした行状が、私が会社で出世できない理由かもしれない。でも、会社には、それを朝日新聞の媒体で紹介させてくれるくらいの度量はある。「朝日新聞はメディアとして死んでいない」とも思う。
原子力・核の問題はとかく、「核廃絶論者」と「核抑止論者」の両陣営に分かれて反目し合う傾向がある。でも、私は、両者は車の両輪だと思っている。核廃絶という理想を捨てれば、核兵器は無分別に増えていき、核の脅しも当たり前になる。一方、核抑止がなければ、平和に核廃絶を議論する場がなくなってしまうかもしれない。ロシアのプーチン大統領が核を使えない(核抑止が効いている)のは、使えば核廃絶を願う人々から猛烈な反発を食らうとわかっているからだ。言葉は悪いかもしれないが、核廃絶論者と核抑止論者は共生の関係にある。それを、「朝日新聞は核廃絶陣営だから」と切り捨てれば、議論は生まれない。もちろん、朝日新聞も「核抑止論者なんて」と言ってはいけない。
私は先日、定期的に教えている広島大学で、「車の両輪」の話をした。講義の後、広大生たちのレポートに全部目を通したが、みな「様々な意見を聞くことの大切さ」「決めつけないことの大切さ」について触れてくれていて、とてもありがたかった。
「名誉教授がおっしゃることだから」と、簡単に信じてはいけません。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)





















朝日新聞取材裏話2026年1月


