●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
※お願い※
取材裏話を寄稿してくださる牧野記者が、皆様の感想を楽しみにしております。是非、ご感想・ご意見・ご要望をお寄せください!牧野記者にお届けいたします。
牧野記者へお便り
2023年2月
外遊
最近、岸田文雄首相の長男、岸田翔太郎政務秘書官が批判を浴びている。1月の欧米訪問に同行した際、大使館の公用車で観光したと報じられたからだ。首相官邸は、広報活動で使う写真撮影や首相のお土産購入などが目的だったと説明しているが、かなり苦しい言い訳に聞こえる。ただ、この問題に憤る野党議員のなかにも過去、公費で外遊した際に「私は絶対に観光したことはない」と言い切れる人は、そうはいないだろう。
政治家の外遊に比べ、外交官の出張は主に交渉が仕事だから、視察のような「仕事をしているのか、遊んでいるのかよくわからない」という日程はあまり入ってこないようだ。それでも、ずっと交渉ばかりしているわけではないから、余った公務の時間には、現地の人との意見交換や情報収集に充てられる。
先日、在京のある大使館から、意見交換会への出席を求められた。本国から来た局長が外交交渉を終えた後、夕刻に複数の日本人から話を聞きたいのだという。最初の1時間を意見交換に充て、残りの時間は夕食をとりながら話を聞く日程だという。新聞記者は人脈が大事なので、新しい取材先の開拓になると思って、引き受けた。会場は都内の有名なホテルにあるレストランだった。出席者は局長とその随行者3人、在京の大使館員1人、通訳、日本人3人の計9人だった。
懇談が始まると、まず局長が、この国の政策をアピールした。すでにメディアで何度も取り上げられているつまらない内容だった。その後、私を含む3人が、それぞれこの政策に関係する話をしたのだが、あまり盛り上がらない。せっかくだから、とそれなりに面白い話をしたつもりなのだが、相手は乗ってこない。一応、随行者たちがメモしていたが、本国に戻った後の「アリバイ用」報告書をつくるつもりなんだろうと思った。
話が盛り上がらないまま、食事会になった。しばらくしてものすごく後悔した。食事は豪華だった。だが、局長も随行者も話よりも、この食事についてきたお品書きを一生懸命見て、やたらに「この食事は何だ」と周りに聞いてる。そこで覚った。この豪華な食事は日本人ではなく、在京大使館が本国からやってきた局長を接待するために準備されたのだと。局長が喜べば、この大使館職員の評価も上がるからだ。
後日、居酒屋で一緒になった外務省OBにこの話をした。私は「いくら食事が豪華でも、まったく美味しいと思いませんでしたよ」とぼやいた。OBはニヤニヤしながら、「その手の会合はよくある話だよ。まさに、税金の無駄遣いだ。君の場合は、その国の納税者のお金でご飯を食べたわけだ」と皮肉られた。首相の長男だけではなく、外交官たちの出張も調べた方が良いかもしれない。
(朝日新聞社 牧野愛博)