●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2018年9月 eスポーツの殿堂
8月21日、ソウル市内に「e(エレクトロニック)スポーツ」の殿堂がオープンするというので取材に出かけた。「DMC(デジタル・メディア・シティ)」と呼ばれ、政府がメディアや映像技術などに力を入れて開発している地区にあるビルの11階に、殿堂はあった。
eスポーツは、対戦型コンピューターゲームをスポーツのように捉えた競技。私のような50代のおっさんは「何だ、テレビゲームみたいなもんか」と思っていたが、支局の韓国人記者に「それは大きな誤解」とたしなめられた。世界のeスポーツ市場を地域別に見た場合、2016年基準で、韓国は7400万ドル(約81億円)。これは、北米の1億800万ドル(約119億円)に次ぐ数字で、日本の500万ドル(約5億5千万円)を大きく引き離す。2017年に韓国教育省が小学生に「将来、どんな職業に就きたいか」というアンケートをとったところ、「プロゲーマー」と答えた子は3.2%で堂々8位に入った。それもそのはず、現在200人弱いるとされる韓国人プロゲーマーの平均年収は9770万ウォン(約1千万円)。なかには年収30億ウォン(約3億円)を稼ぐ選手もいるという。選手の平均年齢はたったの20.3歳だ。
21日には、公開競技になったアジア大会に出場する選手の結団式も行われたが、どの選手も10代から20代前半という若さだった。平日の午後なのに、若い女性を中心に100人ほどのファンも見学に訪れていた。
殿堂には、過去に活躍した「伝説の選手」らの肖像写真や実際に使用したキーボード、優勝カップなども飾られていた。殿堂のオープンを記念した式典で韓国政府傘下の韓国コンテンツ振興院関係者は「殿堂を、eスポーツを楽しむ人々の聖地にしたい」と意気込んだ。
韓国では若年層を中心に、PC房と呼ばれるネットカフェやケーブルテレビのゲーム専門チャンネルなどに人気が集中している。私がソウルに留学した1999年は、ちょうどオンラインゲーム「スタークラフト」が爆発的な人気を集め、どこに行ってもこのゲームの話題で持ちきりだった。
韓国のeスポーツがもてはやされているのは、高額の賞金をかけた大会が法律で禁じられていないことや、政府が「第4次産業革命」の名の下に、こうした新しいビジネスチャンスを積極的に奨励している環境も影響している。ゲームをやっているからと言って、社会的に白い目で見られないようだ。
ただ、そこには、若い人たちにとって、希望が持てる職業や職場が限られているという韓国の厳しい状況も作用している。この殿堂が何十年も続いて、将来、私のようなおっさんの肖像写真も飾られるような時代が来るのだろうか。そんなことを思いながら帰途に就いた。
(朝日新聞社 牧野愛博)