●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2021年7月
埋葬を巡る話
先日、老いた父から埋葬を巡る話を聞く機会があった。
私が育ったのは片田舎で、30年ほど前までは土葬の習慣が残っていた。菩提寺の近くに、地元の人たちを集団埋葬する土地が確保してあった。幼かった頃、そこがどんな場所なのかを知っていたので、近くを通るたびに薄気味悪い思いをした記憶がある。
ただ、もっと薄気味悪い思いをしたのは父たちだった。当時、集落に住む人が亡くなると、順番で「穴を掘る番」が回ってきたのだという。大抵、体力のある青年・壮年世代から2人選ばれた。父も3度ほど、順番が回ってきて、このお役目を引き受けたという。
穴を掘るやり方にはいくつかルールがあるという。まず、第1に一度掘り始めたら、場所を変更してはならない。あちこち掘り返すと、先祖の霊に申し訳ないということらしい。でも、たまたま、立て続けに埋葬しなければならない時もある。別の遺体を掘り返すことがないよう、慎重に、なるべく「落ち着いた地面」を探して掘り始めたという。
でも、3度のうち、1度だけ、まだ衣類が残っているような遺体を掘り返してしまったことがあった。父の相方は腰を抜かしたという。遺体をどう扱ったのか。父は遺体に「久しぶりにお天道様を拝みたかったんでしょう」と語りかけ、しばらく日なたに安置したうえで、新しい遺体を埋葬する前に、同じ場所を更に深く掘り、まずこの古い遺体の方を再び埋葬したという。
大体、穴の深さは「穴から外に出るとき、立てかけたスコップに足をかけて登るくらいの深さ」にしたという。夏の暑い日には汗だくになって作業をしたそうだ。ただ、2番目のルールとして、喪主は穴を掘る人間の作業にケチをつけてはいけないという規則もあった。だから、地域で評判が悪い家が喪主になると、仕返しとばかりに、浅く掘り返すだけで済ましてしまうケースもあったという。
父は、「だから近所づきあいは大事なんだよ」と笑った。そして、穴を掘った人間は「一番苦労した人間」ということで、お通夜や葬儀では一番の上座に招かれ、喪主から食事や酒の供応を受けたという。逆にそれが目当てで、したたかに酔っ払う人間も大勢いた。
「一番、人間の本性が見えるときだった」と父は言う。
父がこんな話をしてくれたのは、母の葬儀が終わった夜だった。月日は流れ、母は荼毘に付され、空に帰って行った。
(朝日新聞社 牧野愛博)