●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2019年9月
日米韓の政治家の知性
「文在寅の政策は、映画に影響されているんだよ」。8月半ば、ソウルのホテルで朝食を一緒に摂った韓国の知人が真顔で話した。彼は保守政権時代、大統領府の高官だった人物。保守だから当然、進歩(革新)勢力の文在寅政権には厳しい態度を取る。だから、話半分で聞いてみた。
彼によれば、文氏は大統領になる前の2016年、原発事故を扱った映画「パンドラ」をみて感動し、彼の脱原発政策に大きな影響を受けたという。
文在寅氏は今年6月、国家に勲功のあった人々をたたえる「顕忠日」に独立運動に参加した金元鳳をたたえる発言をして批判を浴びた。金元鳳が北朝鮮政府の樹立に参加し、朝鮮戦争では韓国軍と戦った人物だからだ。文氏はやはり過去、金元鳳が登場する映画を鑑賞して影響を受けたのだと、知人は語った。
知人にいわせると、政治家は本を読まなければダメなのだという。政治家は世論の代表であるだけに、選挙で選ばれる。それだけに自分の人気には敏感だ。知性や理想がないと、票目当ての行動に走りやすくなり、世間に受けの良い言葉しか吐かなくなる。「世の中はこうでなければならない」という強い信念があれば、例え、世の中から批判されても、やり遂げようとする。
知人はソーセージを頰張りながら、「大体、自分の任期中に成果を上げようと躍起になる政治家は大概、知性や理念がないね」と力説した。
確かに文在寅氏は、激しい言葉で日本を非難している。それは、「日本を支持する言葉を公に発することはタブー」とされる韓国で、ポピュリズムを意識した発言とは言えまいか。
もちろん、文在寅氏に限っての問題ではない。日本の政治家だって、激しい言葉を次々に韓国に投げつけている。最近の一連の問題の発端は、文在寅政権にあると私は思っているが、批判を超えたヘイトに近いような非難は避けるべきだ。やはり、「最近の政治家は本を読まない」という話を永田町界隈でよく聞く。麻生太郎財務相の漫画好きは有名だが、安倍晋三首相も外相秘書官時代の昔、よく漫画を読んでいる姿が目撃されていたと、外務省の古い友人が語っていた。
そして、トランプ米大統領。7月、出張したワシントンで、米国の知人に「トランプが何を考えているのか、知りたいんだけど」と話したら、「簡単だよ。フォックスニュースを見れば良い」と言われた。トランプ氏は毎日、フ
ォックスニュースを見ている。そこで大きな影響を受けるのだという。
米国人がトランプ氏を支持する様子をみると、差別の解消や「核なき世界」など、理想を次々と掲げたオバマ前政権に対する疲労感があるのではないかとも思えてくるのだが、こんな状態が長く続いて良いわけがないと思う。
私ももっと本を読もう。
(朝日新聞社 牧野愛博)