●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2020年6月
デジタル時代と日本
新型コロナウイルスによって、在宅勤務が原則になり、私も自宅で仕事をしている。取材をするためには、基本的に携帯電話とメールが頼りだ。先日は、韓国の知人と話をするときに、今はやりのウエブ会議ツール「Zoom」を勧められた。米国・ワシントンの様々なシンクタンクも、コロナのお陰で今はシンポジウムを開けない。その代わり、Zoomを使ったオンライン討論会の視聴参加を勧めるメールが盛んに届くようになった。
Zoomは情報管理上の問題もあるとかで、知り合いの在京大使館に勤める外交官の場合、Zoomではなく別のウエブツールを使ってテレビ会議をしていると話していた。
いずれにしても、新型コロナの感染拡大によって、否が応でもデジタルの世界が広がったようだ。
もっとも、米国や韓国では既にユーチューブを使った発信も盛んに行われているから、オンラインを使った発信や情報共有はお手の物なのだろう。最近では、「情報鎖国」と言われる北朝鮮ですらも、普通の市民(を装った政府関係の人と思われる)が、ユーチューブで平壌の遊園地やデパートを紹介(宣伝)している。
そんななか、5月半ばに、世界保健機関(WHO)の年次総会がテレビ会議方式で開かれた。新型コロナウイルス問題に関心が集中するなか、米国が猛烈な「WHO・中国たたき」を演じるなど、いつにも増して世間の注目を浴びた。
このなかで、各国代表者らは、テレビ会議であることを意識し、その威信をかけて様々な工夫を行った。
中国の習近平国家主席は、万里の長城の絵を背景に演説し、コロナ対策のために20億ドルを拠出する考えを表明した。韓国の文在寅大統領は、背景の画面いっぱいを5枚の太極旗(韓国国旗)で埋め尽くした。
WHOのテドロス事務局長は、おなじみのWHOのマークをバックに演説を行った。日本が自衛隊を派遣していることでもしられるアフリカ・ジブチの保健相は、執務室と思われる場所で、棚に飾られた様々な記念品を背景に演説した。アルゼンチンのように、背景におそらく母国の自然と思われる画像を流した国もあった。ハンガリーは豪華な宮殿風の部屋で演説し、ベトナムは花飾りを画面の端に置く演出をしていた。
どの国もほぼ例外なく、背景に国旗か国章、あるいは国王ら指導者の写真を飾り、まさに国の威信をかけた演説になった。
ちょっぴり残念だったのは、日本の加藤勝信厚労相の演説だった。画面はぶれるし、音声も悪かった。日章旗が飾られてはいたが、加藤氏の体に隠れて見えないこともしばしばだった。関係者によれば、厚労省にある一室を臨時に使ったようだ。
加藤氏の演説は悪くなかった。でも、その寂しい演出ぶりが、図らずしも、世界の流れに遅れている日本の様子を浮き彫りにしてしまったようで、寂しい気持ちになった。
(朝日新聞社 牧野愛博)