
●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2026年1月
クマと自衛隊
「期待に応えたい半面、頭が痛いのも事実」。11月半ばに食事をした陸上自衛隊幹部が会うなり、そう言ってため息をついた。何の話をしているのかと思ったら、クマ対策の話だった。秋も深まり、人里に降りてきたクマによる被害が連日伝えられていた。陸上自衛隊は11月5日、秋田県内で箱わなの輸送などクマ対策の活動を始めた。クマ被害対策を目的とした自衛隊派遣は異例で、自衛隊法100条などに基づく「民生支援」の形だという。朝日新聞の集計では、今年4~10月のクマによる死傷者は、全国で少なくとも196人。被害者・死亡者が過去最多だった2023年度の同時期(182人)をすでに上回っている。
ただ、問題は自衛隊の活動内容だ。幹部は「力仕事。箱わなやクマの死体を運ぶだけ」と語る。確かに、自衛隊は今回、小銃などは携行せず、クマの駆除は実施しないという。幹部は「私たちは銃器の扱いには慣れているが、クマの行動特性がわからない。だから、猟師のような対応はできない」と話す。
熊の皮下脂肪や頭蓋骨が厚いので警官の拳銃ではクマを倒せない、という報道があった。でも、自衛隊の5.56ミリ小銃でも倒せないという。幹部は「小銃は相手を殺すというより、相手を傷つけるのが目的。その方が負傷兵の手当などで敵の力をそぐことができるからだ」と話す。このため、小銃を使ってもクマ相手にどれだけ効果があるかわからないという。もちろん、陸自はさらに威力がある狙撃銃や機関銃も保持している。しかし、威力がありすぎて、住宅地では危なくて使えないという。「自衛隊の強みを生かせない仕事だ」(幹部)。
私が「では、なぜ自治体は自衛隊に頼むんだろう」と聞くと、幹部は「自衛隊なら費用がタダだし、いやがらずに引き受けてくれるからだ」という。確かに、自衛隊は災害派遣で台風や雪害、地震などの被災地に出向くときもいやな顔をせずに引き受ける。「国のためなら喜んで」と考える隊員はほとんどだという。
「しかし」と、幹部は続ける。「でも、力仕事をするだけならアルバイトで十分だ」「何よりも、自衛隊は今やらなければいけない仕事が山積みになっている」。たとえば、無人機(ドローン)だ。ウクライナ戦争でドローンは戦闘に欠かせない兵器になった。世界の軍隊は競ってドローンの配備を急いでいる。自衛隊には従来、災害派遣時に使う偵察用ドローンくらいしかなかったが、来年度には「掃いて捨てるほど」(幹部)大量のドローンが配備されるという。当然、隊員たちはドローンの整備方法や操縦法、戦術、相手のドローン攻撃を防衛する方法などを学んでいかなければならない。
私が会食した時点では、実際に出動した自治体は1~2カ所程度だった。ただ、「今後、自衛隊にお願いするかもしれない」という自治体は10数カ所あるという。テレビは「クマは今後、東京の23区に現れるかもしれない」というニュースも流している。幹部は「クマ被害が全国に広がって、年中拘束されるようになったら大変だ」とこぼす。
農林水産省は今年、鳥インフルエンザ対策の殺処分などで、自衛隊の派遣がないという前提で体制を整理するよう求めた。幹部は「これで少し救われた」と話す。現在、鳥インフル対策で出動する自衛隊員は従来の3分の1から4分の1まで減ったという。
安全保障環境が厳しい昨今、私たちは「困ったときの自衛隊」という思考に陥らないようにしなければいけないようだ。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)





















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