
●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2025年7月
トランプの選択
米国が6月21日、イランの核関連施設3カ所を攻撃した。トランプ米大統領は攻撃後、SNSに「攻撃は非常に成功し、完了した」「今こそ平和のときだ!」と投稿した。
なぜ、「平和の構築者」を自称するトランプ氏が、イラン攻撃に踏み切ったのか。メディアは「5回に及ぶトランプ政権とイランの核協議が不調だったから」「1979年のイラン革命以来の、米国とイランの間に横たわる憎悪の関係があったから」などと書いていた。
確かに、米国人は400日以上も続いたテヘランにある米国大使館占拠・人質事件のことを忘れていない。当時の米国大使館は博物館として利用されている。数年前、この博物館を訪れた知人は、どぎつい反米の壁画などに度肝を抜かれていた。トランプ氏がこうした米国民の感情に配慮したとも見えるが、それはあくまで結果論だろう。
なぜなら、関係者に取材してみると、トランプ氏の攻撃命令は非常に粗雑なものではなかったのかという疑念がぬぐえないからだ。まず、今回の事態の出発点は、第1期トランプ政権が2018年、オバマ政権が主導して作り上げたイラン核合意から一方的に離脱したことにある。米政府の元当局者は、トランプ氏の判断について「単に民主党がやったことにケチをつけたいだけ。戦略的な読みも何もなかった」と教えてくれた。
イスラエルが6月7日にイランへの空爆に踏み切ると、トランプ政権は「攻撃には加わっていない」として、イランとの核協議に横やりが入ったことに不快感を示していた。トランプ氏は当初、イスラエルが攻撃したことで、弱気になったイランが米国との協議に応じるのではないか、と発言してもいた。
ところが、イランが優勢に戦況を進めていた6月17日、トランプ氏はSNSに「いわゆる『最高指導者』がどこに隠れているか、我々は正確に把握している。彼を狙うのは簡単だが、その場所では安全だ。少なくともいまのところ我々は彼を排除(殺害!)するつもりはない」と投稿。「無条件降伏!」とも書き込んだ。そして、19日には「(イランを攻撃するか)2週間以内に決める」としていた。突如、21日になって攻撃したことについて、あるメディアは「イランに攻撃を悟られないよう、わざと2週間と言った」と解説した。
でも、そんな緻密な計算があっただろうか。「無条件降伏」は、軍事的勝利ではなく、核協議でイランの全面譲歩を勝ち取るという意味でなければ、つじつまが合わない。米軍がイランに地上軍を派遣すれば、イラクやアフガニスタンの悪夢が繰り返され、米国で支持率がガタ落ちになることは火を見るより明らかだからだ。トランプ氏は20日、平和の構築者としてノーベル平和賞が受賞できないことに不満を漏らしている。
今年3月にイエメンの反政府武装組織フーシを攻撃する際、トランプ政権の高官たちの会話が、民間通信アプリ「シグナル」から流出した。バンス副大統領が「再び欧州を助けるのは嫌だ」と語るなど、雑で感情的なやり取りが展開されていた。
トランプ氏の決定は案外、緻密な戦略に基づくものなどではなく、「イスラエルの勝ち馬に乗る」「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビってやめる)という嘲笑を浴びたくない」といったかなり俗っぽいものだったのではないか。そのつけを、これから世界が払わされるのだと思うと、本当に気が重くなる。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)





















朝日新聞取材裏話2025年8月


