●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2022年7月
霧島演習場
6月、宮崎県と鹿児島県の県境にある陸上自衛隊の霧島演習場を訪れた。訪れる数日前、陸自の関係者からメールをもらっていた。
「足のサイズを教えてください」
当日の天気はあいにくの雨模様だった。朝、熊本市を出発し、2時間ほどかけて演習場にたどりついた。山間の、寂しい場所に演習場があった。プレハブ小屋に案内された。そこで、私が取材する陸自の演習内容について説明を受けた。陸自の地対艦ミサイル連隊による発射演習だった。説明を受けた後、足のサイズを聞かれた意味を理解した。長靴を渡されたからだ。演習場は、部隊が運用できるほどの広大な土地が広がっているだけで、舗装した道路が広がっているわけではない。梅雨の長雨で、地面はぬかるんでいた。
自衛隊のジープに乗り、取材する場所まで移動した。ジープには普通の乗用車と同じように、エアコンとラジオがついていた。同行者が「このジープは民生品を改造したものです。財務省は予算を抑えるため、エアコンとラジオは必要ないだろうという意見でした。でも、エアコンとラジオを外すと、電気系統をつなぎ直す必要があることがわかりました。かえってお金がかかるから、そのままエアコンとラジオを残したんです」と教えてくれた。
10分ほど、悪路を揺られながら移動して、取材現場に到着した。細い雨が降り注ぐ向こうに、ユンボが見えた。「何を掘っているんですか」と聞くと、案内役の連隊長が「築城しているいんです」と答えた。自衛隊では、陣地を作ることを「築城する」と表現する。掘り返した土砂を詰めて土囊をつくり、それを積み上げているのだという。「私たちの地対艦ミサイルは、敵には一番の脅威に映ります。どうやって攻撃を防ぐのかを考えているのです」
雨のなか、再び移動して、演習場のなかに設けられた指揮所を訪れた。テントを少し補強しただけの施設だが、入り口の細い道には、有刺鉄線をまいた遮蔽物が設けられていた。入り口で遮蔽物がどけられるのを待っていると、背後で物音がした。振り返ると、迷彩服にヘルメット姿の兵士がこちらを凝視していた。案内をしてくれた人が「歩哨です。いつ、襲撃されるかわからないので、警戒しているのです」と説明してくれた。前日の深夜にも、敵軍に夜襲をかけられる訓練をしたのだという。歩哨に立つ人は2~3時間ほどの仮眠を取り、交代で警戒に当たっていたという。こうした時間を3泊4日続けるのだという。
自衛隊の演習取材は20年ぶりだったが、20年前と比べると、随分実戦を意識した演習になったものだと感じた。連隊長は自分たちの演習のやり方について「弱者の戦法です。いつ、相手にやられるかわからないという状況で、戦い方を工夫するのが自分たちの仕事ですから」と話した。自衛隊は専守防衛であり、必要最低限の武力しか行使していけないことになっている。
台湾海峡を巡り、中国軍の武力挑発が続いている。北朝鮮は7回目の核実験を行う動きを見せている。ウクライナでは、まさかと思っていて戦争が現実のものになった。世界の動きは、身近な自衛隊の演習にも影響を与えていた。
(朝日新聞社 牧野愛博)