●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2018年10月 韓国で増える日系ホテル
我が家のアパートに届く韓国の新聞に最近、目を引くチラシが入っていた。日本語の表記があったからだ。ソウル中心部の観光地、仁寺洞に新しくオープンした日系ホテルの広告だった。しばらくすると、今度は別の日系ホテルから南大門の近くにオープンするホテルの内覧会に来ないかというお誘いのメールが来た。
気になって調べてみたら、ここ数年、日系ホテルがどんどん誕生していることに気がついた。共通するのは、価格が150ドルぐらいだということと、日本語が話せるスタッフが常駐しているということだった。内覧会に行ったホテルで客室を見せてもらったら、全室がトイレとバスを別々にしていて、しかもバスルームは洗い場がついていた。担当の方によれば、ターゲットを日本人客に絞っているからだと言う。
韓国を訪れる日本人は、外国人全体の15%ぐらいを占めている。一番多いのが、30~50代の女性客だそうだ。ツインルームを2人で一緒に使うから、トイレとバスを別々にした方が使いやすいのだという。コスメグッズも各種とりそろえていて驚いた。
韓国のホテルは1泊400ドルくらいの高級ホテルはともかく、それ以外はモーテルのような100ドルくらいのホテルが主流だ。高級ホテルのなかにも、老朽化した施設も多い。備品も古く、歯ブラシやひげそり用のカミソリを準備しているホテルは数少ない。サービスでお客さんを惹き付けるという発想が、日本より不足しているので、従業員は無愛想で、苦情を言っても受け付けてくれない。
韓国の人に能力がないわけではない。最近、日本のコンビニで働く外国人が増えているが、韓国人もよく見かける。彼らは日本人従業員と全く変わらないサービスを提供してくれるから、環境さえ整えば、十分能力を発揮できるということなのだろう。
韓国のホテルに比べ、日本のホテルチェーンはノウハウがしっかりしているから、サービスは申し分ない。しかも、徹底して日本人観光客に絞って営業をかけるから、自然と宿泊客は日本人が多くなる。明洞のホテルに取材に行ってみたら、ロビーにいるのは、日本人ばかりだった。
「せっかく外国に来たのに、周りが日本人ばかりだとがっかりされるお客さんもいらっしゃいませんか」と聞いてみた。ホテル側は「外にいるとき、外国の気分を満喫できれば良いみたいですよ。ホテルに戻ったら、日本人が多い方が我が家に帰った気分になって安心されるみたいです」と説明してくれて、納得した。
最近、韓国の友人たちも、日本から来る知人には日系ホテルを勧めることが多いという。日本ってなかなかサービスが発達しているんだな、と改めて実感した。
(朝日新聞社 牧野愛博)