●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2024年3月
雪やみぞれとの格闘
能登半島地震の災害現場
2月、山梨県富士吉田市にある陸上自衛隊北富士駐屯地を訪れた。敷地内には2月初めに積もった雪があちこちに残っていた。駐屯地のすぐそばに富士山の裾野が広がる。例年、山頂から雪が積もり始め、徐々に裾野に広がっていくのだという。出迎えてくれた自衛隊員は「地球温暖化の影響でしょう。今年はかなり雪が少ない状態です。若い隊員たちは、暮らしやすいと言って喜んでいますよ」と教えてくれた。
駐屯地の建物内部の壁には、全国各地に散らばる陸自部隊の名前が隊章とともに掲示されていた。そのうち、5つくらいの部隊に銀色のリボンが、青森・弘前の陸自第39普通科連隊にだけは金色のリボンがかけられていた。陸自北富士駐屯地にある「富士トレーニングセンター(FTC)」には、レーザー光線などを使って模擬戦闘をするための装備が備えられている。全国の部隊が、北富士駐屯地にいる陸自評価支援隊と模擬戦闘を行うためにやってくる。銀色のリボンは、「もうあと少しで勝利できた」という意味、金色のリボンは「陸自評価支援隊を破った」という意味だった。
私がこの駐屯地を訪ねたのは、陸上自衛隊部隊訓練評価隊の加々尾哲郎隊長(1佐)が、金沢市にある陸自第14普通科連隊長を務めていた2018年2月、北陸豪雪被害に対する災害派遣を経験していたからだ。今年の元日に起きた能登半島地震でも、災害派遣された自衛隊員が雪やみぞれと格闘している。現場にしかわからない苦労を知りたいと思ったからだ。北陸豪雪被害では、2018年2月5日夜から降り続いた雪により、国道8号に31.8キロにわたって、車両1190台が立ち往生した。福井県知事が第14普通科連隊に人命救助のための災害派遣要請をしたのが、2月6日午後2時だった。第14連隊など、派遣された自衛隊員はのべ4925人にのぼった。ラッセル車などによる除雪作業ができるのは、渋滞の先頭と末尾だけだった。作業をしている間にも雪が降り積もった。雪で排気管が覆われれば、一酸化炭素中毒の危険も生まれる。燃料切れで寒さに震える人も出てきた。隊員は徒歩で、ソリに積んだ水と食糧、ガソリンを各車両に届けたという。隊員たちは同時に、スコップで片端から車両の除雪を始めた。
加々尾氏によれば、自衛隊は冬季訓練などの際、2時間に一度は休息を取るという。「雪が降る中で作業をすると、低体温症の心配があります。厚着をして作業をすると汗をかくので脱水状態になりやすいし、下着もこまめに替えないと凍傷の恐れも出てきます」という。ただ、陸自の駐屯地に勤務する隊員は地元出身者が多い。このケースでも「地元に貢献したい」という気持ちから、一生懸命働く隊員ばかりだったという。結局、2時間ごとの休憩を4時間ごとにした。現場に行くまでに使った高機動車のなかで雑魚寝をして、短時間の仮眠を取った。結局、すべての車両を救出したのは2日以上経った8日夜だったという。
それでも、SNSでは「自衛隊の救出活動が遅い」という声も出たという。これに対し、雪国に住む人たちから「雪かきの大変さがわかっていない」という反論も出て、自衛隊員たちは救われたそうだ。能登半島地震の災害救出活動への評価もそうだが、現場をよく知らずに、安易に報道したり評価したりすることは慎む必要があると、改めて教えられた。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)