●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2023年6月
鳥のさえずりと乾燥機
ワシントンDCへの出張では、ポトマック川をはさんだお隣、バージニア州アーリントン郡にあるアパートを借りていた。9階の部屋のベランダに出ると、いつも小鳥のさえずりが聞こえてきた。眼下に広がる街を見下ろすと、街のあちこちに樹木が植えられていると言うよりも、森の中に建物が点在しているという風景が続いていた。
5月初め、ワシントンから飛行機で3時間ほど離れたカンザスシティに出かけた。知人が車で迎えに来てくれた。「次のサッカー・ワールドカップ(2026年北米大会)では、ここでも試合が行われるんだ」とうれしそうに話す。知人が3年ほど前に、50万ドル(約7千万円)で購入したという自宅の裏側には、小さいながら庭があった。「芝生の手入れは自分でしているの」と聞くと、知人は「1カ月150ドル(約2万1千円)で、業者に頼んでいる」と言う。町内会に会費を払うと、契約した業者がまとめて庭の手入れをしてくれるのだという。
「そこまでして、庭が必要なの」と、更に聞くと、知人は「米国人はみな、庭付きの家に住むのが夢なんだ」と答える。知人は車を運転しながら、道路脇にある住宅を見て、「あれは100万ドル(約1億3千万円)」「これは80万ドル(約1億1千万円)」と説明してくれた。100万ドルだと教えてもらった家の周囲には広々とした庭(庭園)が広がっていた。
自然が好きということかもしれないが、当然、日本のように「狭い場所に住宅が密集」ということにはならない。カンザスシティはミズーリ州とカンザス州に跨る大都市圏だ。ミズーリ州にある空港から、知人が住むカンザス州の自宅まで車で1時間ほどかかる。知人も職場まで車で1時間ほどかけて通勤しているという。知人は「そのうち、テスラの電気自動車を買うつもりだ」というが、排気ガスによる地球温暖化の問題を簡単に緩和できないだろう。
私が借りたアパートも、自然環境は抜群だが、問題もいっぱいある。8年前に米国に住んでいた時と同じように、ゴミの分別は全く進んでいない。アパートの各階にはトラッシュボックス(ゴミの投函場所)が設けられ、「燃えるごみ」も「燃えないごみ」も一緒に捨てる。生ゴミは、台所のシンクにディズポーザーがついているで、それを使って粉砕して捨てられるが、電気代はかかるだろう。洗濯機には、やはり、乾燥機がセットでついていた。ベランダには物干し竿はついていない。洗濯物を干している家は、ワシントンでもカンザスシティでも見ることがなかった。
ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は4月27日の講演で「これまでのサプライチェーン(供給網)は経済第一だった。これからは安全保障や気候温暖化、米国人労働者の保護を考えた供給網をつくる」と話しながら、「同盟国とも協調していく」と語った。これまで、超大国として、散々良い思いをして来たこの国に本当にそんなことができるだろうか。私には、「同盟国にも強要する」と語っているように聞こえた。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)