●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2023年7月
ジェンダーギャップ
(男女の違いによって生まれる格差)
最近、原稿を書いていて校閲係から指摘を受けた。インタビューの際、相手が使った「ビジネスマン」という言葉をそのまま文字にしたら、「今の時代、ビジネスパーソンに置き換えて下さい」と言われた。仕事をしている人は男性だけじゃないから、男女差別にあたるということだそうだ。
新聞記者をしながら、広島大学法学部で時々、学生に教えている。意外かもしれないが、法学部では結構な数の女性が学んでいる。これは、安定志向が働いていて、公務員試験や司法試験を受けようと考える女性が多いからなのだという。
法学を学ぶ女性は多いが、学者になると専攻分野に偏りが出る。女性の法学者が専攻するのは民法や家族法などが多く、刑法を専攻する女性学者は数えるほどしかいない。これは、「男は外、女は内」と決めつけてきた日本の風土の名残なのかもしれない。
そんなある日、韓国から知人の外交官(男性)が出張で東京にやってきた。新宿でお好み焼きを食べながら、話題になったのは、女性外交官のことだった。韓国で新しく任官する外交官は、1990年代までは圧倒的に男性が多かった。ところが、2000年代に入ると、男女比が逆転し、今では女性外交官が7割を占める。課によっては、課長以外みんな女性という部署もある。
どうして、女性の合格者が多いのか、諸説ある。「男性は軍隊に行かなければいけないので、試験準備で不利になる」「語学は、女性の方が男性より優れている」「男性は物事に集中できない」などなど。どれが正しいのかわからないが、韓国では「男性枠」を設けないと、男性外交官が鋳なくなるのではないか、と言われているほど女性外交官の進出がめざましい。
従来、問題になっていたのが「発展途上国には行きたくない外交官の問題」だ。韓国の外交官が在外勤務をする場合、平等な待遇を考え、先進国に勤務したら次は発展途上国、という人事を行うのが通例になっている。ところが、「子どもの教育を考えた場合、発展途上国には行きたくない」という女性外交官が一定数いる。韓国は世界でも有数の受験競争が激しい国だ。親は、少しでも子どもの進学に有利な環境を提供しようと心を砕く。
そして、ついに「海外勤務したくない外交官」も現れるようになったという。ソウル南部の江南区にはSKYと呼ばれるソウル大、高麗大、延世大への進学実績がある高校や学院(塾)が軒を連ねる。それで、「ソウルを動きたくない」という外交官が少なくないのだという。果たして、この問題も「子どもの教育は女性がやれ」と押しつけてきた社会のゆがみのひとつなのかもしれない。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)