●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2016年8月
米軍基地のそばで食べたタコス
7月、ソウルから車で2時間ほど南に離れた京畿道平沢に出かけた。ここには、広大な在韓米軍基地がある。在韓米軍は基本的に、1953年の朝鮮戦争停戦時に駐屯していた場所をそのまま基地にしてきた。ジョージ・W・ブッシュ米前政権の時代、これをいくつかの基地に集約することになった。その一つが、平沢にある米軍のキャンプ・ハンフリーズだ。来年末ぐらいまでに新しい在韓米軍司令部もやってくる。この日は、南北軍事境界線近くに展開していた部隊の一つが、平沢に引っ越したうえでの新しい部隊旗掲揚式があった。
取材団は基地の前の駐車場に午前10時までに集まるよう指示されていたが、午前9時過ぎに到着した。少し時間があるので、基地の前を歩いてみた。一番の繁華街とおもった場所は、朝早いからか、閑散とし、うらぶれていた。不動産屋、飲食店、洋品店など、みな古びたつくりで、ほとんどが米軍を当て込み、英語で表記されていた。写真屋の店頭には、制服を着てほほえんだ米軍関係者とその家族の色あせた写真が飾られていた。
コーヒーを飲ませてくれる店を探したら、民家のような家屋に「breakfast」と書かれた食堂があった。中は完全に韓国風のつくりなのに、愛想の良い中年女性が英語であいさつしてきた。顔立ちを見ると、東南アジア系なのかもしれない。お客は米軍関係者らしき若い男性が3人だけ。コーヒーを頼んだら、韓国焼酎を飲むときに使う小さいショットグラスにミルクを入れて運んできた。お代は1ドル。ドル札の持ち合わせがなかったので、ウォンで勘弁してもらった。
取材が終わった後、せっかくだから昼ご飯を食べて帰ることにした。今度は、結構なお店が開いていた。なるべく賑やかなお店にしようと思ったら、メキシコ料理風の小さなお店が目に飛び込んできた。小さな庭がついていて、そこで食べている10数人全員が軍服を着た米軍兵士だった。
米軍兵士たちの列に並び、ショーケースの前に進んだ。ケースの向こう側で、女性が英語で、タコスにするのかブリトーなのかと聞いてくる。更に「コメは入れるのか」「豆はどれにする」「肉はチキンかビーフか」「ワカモレもトッピングするのか」と矢継ぎ早に聞かれて面食らった。完全に米国のメキシコ・ファーストフードスタイル。タコスはボリュームがあって、とっても美味しかった。
広大な米軍キャンプの中には野球場やテニスコートもあった。いくつものアパートが立ち並んでいた。野球場では、白人の少女が、父親とみられる男性に投げてもらったボールを楽しそうに打ち返していた。これから米軍兵士とその家族が引っ越してきたら、この商店街ももっと活気づくのだろう。そのとき、沖縄県で起きているような住民と米軍との軋轢も起きるのだろうか。そんなことを考えながら、ソウルへの帰途に就いた。
(朝日新聞社 牧野愛博)