
●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2025年4月
大使というお仕事
先日、任期を終えて帰国した外交官の知人と食事を共にした。知人はアフリカ某国の大使を2年半にわたって務めた。世間一般にはかなり誤解があるようだが、「大使」という職業を聞いて、「高級ワインと豪華な食事を楽しみ、華麗な大使公邸で暮らすセレブな人たち」というイメージを思い浮かべる方も少なくないようだ。私も仕事柄、様々な国の大使公邸にお邪魔してきた。確かに、立派な公邸に住んでいる大使も数多くいた。
でも、そうではない大変な日々を送っている大使も多い。この知人が赴いた国は治安がとにかく悪かった。失業率が高く、窃盗や強盗事件が頻発する。在留邦人の約3割が被害に遭っていた。外交官も例外ではない。強盗に入られた大使も複数いた。知人の大使公邸の場合、24時間体制で警備員を雇っていた。ある夜、知人は警備員の様子を見に行った。外壁沿いに椅子を置き、誰かが座っているような姿が見えた。近づくとそれは人形だった。知人は「警備会社が給料をちゃんと払っていない。警備員は食べていけないから、別のアルバイトに出かけていた」と憤慨する。いつも鋼鉄製の扉がついた緊急避難用の部屋で寝ていたが、ぐっすり眠れた日はなかったという。
別の小さな島の大使をしている知人は、料理人を帯同していない。あまりに辺鄙な場所だったことも影響したようだ。公邸で会食ができないから、街に数軒しかないレストランを会食場所にして使いまわしているという。単身赴任のため、朝食や、会食のない日の夜は自炊している。島だから生鮮食品が不足している。たまにスーパーに野菜が入荷しても、すぐ売り切れてしまうという。
こうした大使館は大体小規模だ。館員の数は少なく、人間関係が濃密になる。そこにセクハラやパワハラを働く輩がいると、管理職である大使の仕事は一気に増える。さらに別の国の大使を務める知人は「俺の仕事の半分は労務管理だよ」とぼやく。
こんな人たちが日本の外交を支えている。知人たちは不便な生活を送りながら、「生活が不便でも、好きな外交ができてうれしい」と口をそろえる。決して「素晴らしい外交官ばかり」と言えないのも事実だが、「どうせ外交官は皆同じ」という色眼鏡で見ないであげてほしい。
朝日新聞社 牧野愛博(よしひろ)





















朝日新聞取材裏話2025年5月


