●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2021年6月
お国のために
最近、警察官僚と話をする機会があった。
5月25日は、米国で黒人男性ジョージ・フロイドさんが警官に首を圧迫されて死亡した事件から1年にあたった。警察官僚は「日本の警察官からみれば、フロイドさん事件など想像もつかない」と話す。日本のお巡りさんといえば、「親切で優しい」というのが代名詞だ。下手に話しかけたら、すぐに「動くな!」と言われかねない米国警官とはえらい違いだ。
「最近のコロナ騒ぎで、警察官も大変でしょう」と聞いてみた。酒を飲める場所がなくなった人たちによる「路上飲み」が世間の話題になっているが、対応が大変なのだという。警察官は強制力を持たされていないので、路上飲みをしている人たちに「家に帰れ」とは言えないのだという。警察官僚は「まずは笑顔で。それから、この地域で緊急事態宣言が出ていることを説明して、協力を促すということくらいしかできません」と語る。ただ、警察官は普段から、犯罪者や迷惑な人、乱暴な人などを扱っているので、経験も豊富だ。相手を過剰に刺激せず、プライドも傷つけず、諭して、なだめて、という仕事に長けているから頼りにされているのだろう。
今回の新型コロナウイルスによる感染防止策を巡って、「欧米のように、罰則を伴う強力なロックダウン(都市封鎖)を行って、コロナを封じ込めるべきだ」という意見を時々、耳にする。果たして、日本も欧米のような対応をすべきなのだろうか。
少し前、自民党の厚労族議員に同じ質問をした。議員は「まだ、戦争の記憶が残っている人もいる。70年以上かけてつくってきた平和な社会の意識を変えるのは、なかなか大変だ」と語った。「戦争で、お国のためにという理由で、数多くの方々が亡くなった。もう2度とごめんだ、という意識で作られたのが戦後の日本社会だ。今、欧米のようなシステムに切り替えれば、相当な抵抗が出るだろう」とも話した。
日本では欧米のような強力な措置は取れないが、「要請」や「お願い」をよく聞き入れて、協力しようとする人々も多い。飲食店などで働く人々から悲痛な声が上がるのは、まさに、こうした「善意による協力」が数多く存在している証拠だろう。
ただ、最近は新型コロナだけではなく、尖閣諸島や台湾などを巡る緊張も高まっている。いつか、「善意による協力」だけではしのぎきれない時が来るかもしれない。国家による強制力を必要最低限のものにするには、どうしたらよいか。残念ながら、永田町にも霞が関にも、まだこの議論を始める雰囲気はない。
(朝日新聞社 牧野愛博)