●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
※お願い※
取材裏話を寄稿してくださる牧野記者が、皆様の感想を楽しみにしております。是非、ご感想・ご意見・ご要望をお寄せください!牧野記者にお届けいたします。
牧野記者へお便り
2019年8月
日米韓のサービス文化
7月半ば、ワシントンに出張した。たまたま、この週は温度が上昇し、最高気温38度を記録した。米国の知人たちは「シンガポールみたいだ」「いやいやパキスタン並だ」と悲鳴を上げた。
ある夜、知人とペルー料理店で会食した。この日のテーブル担当は、20代前半とみられる白人の青年だった。暑さに参っていた私たちは最初、ペルー産ビールを2本注文した。あっという間に飲んでしまい、空の瓶が並んだ。瓶を下げに来たヒスパニックと思われる男性従業員が「ビール追加します?」と聞いてきたので、喜んで頼んだ。
ところが、その後、私たちのテーブル係の青年がやってきた。「飲み物は?」と聞かれたので、「さっき、頼んだよ」と答えた。青年は笑顔こそ絶やさないものの、「これから、注文は僕にしてくださいね!」と釘を刺してきた。
まあ、仕方がない。彼らの収入はチップが頼り。サービスする機会を奪われたら、たまらないということだったのだろう。
これに比べると、日本と韓国のサービスもまた、それぞれのお国柄が出ていて面白い。
日本を訪れた韓国人の知人がみな驚くのは、日本のサービスだ。
「なぜ、チップももらわないのに、あれほど笑顔が出るのか」「おつりをもらうときに、お札をきちんとそろえてくれた」などなど、称賛の嵐だ。
それだけ、韓国ではサービス文化がまだまだ発達していないということなのだろう。投げやりな感じで注文を取りに来たり、ずっと放っておかれたり、韓国にいる間、色々な経験をした。
ただ、韓国の人の能力が足りないとか、サービス精神が無いとは思わない。なぜなら、日本のコンビニなどで働いている韓国人は、日本人と全く遜色のない仕事ぶりを見せているからだ。
また、韓国の食堂のアジュンマ(おばさん)たちは、なかなか親身で優しいところがある。あるとき、デザートに出てきたパッピンス(韓国風かき氷)に練乳がかかっていた。私が「私は練乳ダメなんですよ。下げてもらっていいですか」と話すと、「あら、じゃあ、練乳抜きのデザートを持ってきてあげる」と答えてくれた。こんな風に、色々と面倒もみてくれる。なじみになった店では、私がどんな食べ物や飲み物が好きなのか、すっかり覚えて、先回りして持ってきてくれたりもした。
韓国のサービス産業に従事する人たちが無愛想なのは、公共の場に出ると、突然威張り出す人が多い事への防衛反応なのかもしれない。三者三様。私はどの国のサービスも結構気に入っている。
(朝日新聞社 牧野愛博)