●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2020年9月
韓国教会の試練
「新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちから様々な動詞を奪っている」とよく言われる。「旅行する」「留学する」「外食する」などなどだ。お隣の韓国では「礼拝する」という動詞を奪われ、困っている知人があちこちにいる。
韓国で会食をする際、知人が食事に手をつける前にお祈りをする場面に良く出くわした。それで「ああ、韓国にはキリスト教信者の方が多いんだな」と何となくわかった。特派員でいたころ、韓国の教会関係者が多数、アフガニスタンで拉致されて大騒ぎになった事件にも遭遇した。
韓国はアジアでは、フィリピンに次いでキリスト教信者が多い国だとされている。韓国統計庁によれば、2017年時点でキリスト教信者はカトリックが約390万人、プロテスタントが約970万人で計1300万人以上になり、全人口の4分の1を占める。日本統治時代や戦後の軍事独裁政権下で抵抗運動の先頭に立ったことから戦後、信者が急増した。米国から宣教師が多数、韓国に派遣され、教会が朝鮮戦争で荒廃した国土の復興の拠点になったこともあった。
韓国では教会での集団感染がきっかけになり、再び感染者が増えている。それだけ教会での礼拝は韓国の人たちには欠かせない日常の一部なのだろう。8月24日からは、全国で教会での礼拝が再び禁止された。ある日曜日の午前、ソウルの知人に電話をかけた。知人もキリスト教信者だが、礼拝が禁じられたから自宅にいるだろうと思ったからだ。知人は「今からオンライン礼拝だよ。午後に改めて話をしよう」と答えてくれた。別の70代の知人は「やはり、礼拝は教会で他の信者と一緒に祈ってこそ、気持ちが通じるのに」と残念がっていた。
韓国は強烈な受験勉強を勝ち抜く必要がある競争社会だ。男性のほとんどは軍隊に行かなければいけない。依然、地縁や学閥などが影響力を持つ社会で、逆に言うと、本当に公平な社会とは言いがたい面も多い。つらいことや喜びを分かち合うことができる教会での礼拝が一日も早く復活してほしいと思う。
(朝日新聞社 牧野愛博)