●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2021年1月
リモートワークと記者
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、世の中と同じように私の仕事も様変わりしている。国際ニュースを扱うのが仕事なので、海外出張は欠かせないが、昨年の2月にソウルに行ったのが最後になった。記者はパソコン1つあれば、どこででも原稿を書くことができるが、現場に行けないのはなかなか厳しい。海外の取材は電話やメールが頼りだし、場合によっては国内の取材もしばしば制限されている。私はもうロートルなので、現場で起きた事件などには参加させてもらえない。現場に行かなくても良いのなら何とかなるのではないか、と思いがちだが、そういうわけにもいかない。
誰しも経験があると思うが、雑談は非常に重要な取材のきっかけになる。雑談というのは、話題が次から次に飛ぶため、自分がまったく想定していなかったような話を教えてもらえることがある。先日も、最近の自衛隊を取り巻く問題について話を伺おうと、陸上自衛隊OBと面会した。OBが浮かぬ顔をしているので、「どうかしましたか」と尋ねると、「最近、国内の一部の保守派から批判されている」という答えが返ってきた。「自衛隊OBなら保守のはずなのに、なぜ保守から批判されるのか」と思って話を聞いた。OB氏は米大統領選について客観的な論評を心がけていたところ、トランプ米大統領の落選を信じたくない人たちから猛烈に批判されたのだという。面白い話だと思い、最初に取材しようと思っていた話はそっちのけにして、この話を記事にした。
記者といっても、ほとんど素人に毛が生えた程度の知識しかないから、その分野の専門家に太刀打ちできるはずがない。雑談をしていて、自分の想定した質問以上の話に発展することが多い。でも、こういう余裕は、電話やメールでは生まれにくい。
対面取材が良い2つめの理由は、秘密の保持ができるという点だ。平和な日本ではあまり考えられないが、海外では盗聴や盗撮は日常茶飯事で行われている。私もソウル在勤時は、何度も韓国政府当局の尾行に遭った。私の携帯やメールは常にハッキングの対象だったと、韓国政府関係者から聞いたことがある。海外取材ができなくて困るのはこの点だ。
そして3番目の理由は、対面することで相手の人柄を知ることができるという点だ。取材対象にはいろいろな人がいる。口が重い人は、なかなか取材しづらいが、悪い人ということではない。むしろ、口が軽い人の方が、逆に記事を書かせようという意図を持っているケースもある。人間の持っている思惑や人柄を知るのは、やはり会ってみるのが一番だ。カフェの接客係のようなサービス業の人にも紳士のように振る舞える人には、自然と好感を持ってしまう。誰かが言っていたが、電話口で相手に謝ったり、お礼を言ったりするとき、相手には見えないのに自然と頭を下げてしまう人は、ウソのない性格の人だと教えてもらったこともある。
新型コロナのなか、世界のあちこちで対面取材の機会が減っているはずだ。コロナはニュースの質も劣化させているのかもしれない。
(朝日新聞社 牧野愛博)