●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2019年7月
韓国と防犯カメラ
最近、大阪府で警察官が襲われて拳銃を奪われる事件が起きた。犯人は事件発生から1日で逮捕され、事件は早期に解決した。
この事件で、改めて威力を発揮したのが防犯カメラだった。犯人の動線が、コンビニや駅、街頭のカメラによって明らかになった。大阪の事件からしばらくして起きた、神奈川県で保釈中の男が逃走した事件でも、防犯カメラが捉えた映像が公開されていた。
この事件の後、知人の警察官僚と食事をした。「まさに、防犯カメラさまさまでしたね」と水を向けると、「確かに、色々な点で過去とは比べものにならないくらい、カメラが威力を発揮するようになりました」と教えてくれた。
カメラは地方自治体が設置するものもあれば、民間が保有するものもある。昔は、「プライバシーの侵害」「監視社会」などという批判も根強かった。警察当局は、ひとつひとつ、「カメラの映像を、むやみに利用しない」などの条件を示して、相手に納得してもらう作業を重ねたという。
また、警察自身も、膨大なカメラの映像を効率よく解析するノウハウの研究を重ねた。カメラが撮影した映像はいちいち回収されるわけではなく、常に更新され続けている。せっかく「決定的な瞬間」を撮った映像があっても、回収が遅れれば、新しい映像に上書きされてしまう。素早い行動が、防犯カメラの効率的な利用につながっているのだという。
私がここで思い出した国がある。韓国だ。あまり知られていないが、韓国では「CCTV」と呼ばれる防犯カメラが大きな威力を発揮している。理由は、北朝鮮にある。北朝鮮と韓国は休戦状態にある。韓国は当然、北朝鮮のスパイを警戒している。地下鉄などには「スパイをみつけたら、国家情報院に連絡してください」というステッカーが貼られている。
これに、基本的に成人に義務づけられている指紋の登録や、発達したカード社会という環境が加わって、あっという間に犯人を見つけてしまう。私が特派員としてソウルで生活していたときも、日本から韓国に高飛びした犯人が、使用したクレジットカードから地方都市に潜伏していることが明らかになり、そこから防犯カメラによって居場所を突き止められたことがあった。
「日本の防犯カメラ政策は、韓国をお手本にしているのですか」。私が先の警察官僚に尋ねると、彼は苦笑いして、「いや、韓国じゃなくて英国を主にお手本にしたみたいですね」と押してくれた。日本と韓国は隣国同士だが、何かとぶつかることが多い。韓国は昔、日本の交番制度を自国に取り入れたこともあるが、最近では、やっぱり気軽に学び合える環境とは言えないようだ。
(朝日新聞社 牧野愛博)