●牧野愛博記者プロフィール●
1965年生まれ。91年朝日新聞入社。
瀬戸通信局、政治部、販売局、機動特派員兼国際報道部次長、全米民主主義基金客員研究員、ソウル支局長などを経て、2021年4 月より朝日新聞外交専門記者(朝鮮半島・日米関係担当)。
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2020年5月
韓国のオンライン授業
新型コロナウイルス問題が世界を覆っている。私も在宅勤務が主になった。電話かEメールに頼る取材になってしまう。中学生の長男も新学期が延期になり、自宅で規則正しい生活をしようと悪戦苦闘している。
そんなおり、お隣の韓国の小中高校でオンライン授業が始まった。興味があったので、韓国の知人に中学校の先生を紹介してもらい、電話でどんな様子か聞いてみた。
先生と生徒がリアルタイムで対面する授業がほぼ不可能だという。一クラス数十人の生徒が、一緒に同じ回線を使うと負荷がかかりすぎるらしい。主に、小中学校は、録画してある韓国教育テレビ放送EBSをオンライン上で視聴する授業を行っている。高校の場合、教師が作成した課題にオンライン上でアクセスして学習するのだという。
でも、そうなると色々な問題が起きる。生徒がちゃんとオンライン授業に接続しているかどうかは確認できるが、本当に本人が自宅でちゃんと机に向かって視聴しているかどうかまではわからない。電話で教えてくれた先生は「接続していないときは、私が生徒に電話します。生徒が電話に出なければ保護者に電話しますが、それ以上のことはできません」と話してくれた。一度接続だけして、遊んでいても、誰も注意できない。
リアルタイムで先生と生徒が対話するわけではない。だから、授業は淡々と一方的に進んでいく。スピードは速いが、本当に生徒が理解したかどうかはわからない。理解した子とそうでない子の学力格差がどんどん開いてしまう。テストができるわけでもないから、生徒に何がわかっていないのかを自覚させることもできない。先生は「コロナ問題が収まったら、オンライン授業でわからなかったことを質問する時間を作ろうと思っています。でも、いつそれができるかはわかりません」と話す。
それでも小中学校はまだマシだ。韓国の受験戦争は熾烈だ。高校生たちは、何の質問もできない単調なオンライン授業に不満を募らせているという。韓国では学院(ハグォン)と呼ばれる塾に通う。午後10時ぐらいまで学院で勉強するのは当たり前。地方自治体によっては、午後10時から午前6時くらいまで、学院の営業を認めない条例を作っているところもある。そうしないと、子どもが24時間勉強漬けになりかねないからだ。
学院で1~2年先の内容の授業を受けている生徒も珍しくない韓国の高校生にとって、オンライン授業はつまらないのだろう。でも、高校生の子どもを持つ別の韓国の知人は「オンライン授業をやらなければ、金持ちの家庭だけが得をするという声も多いんだよ」と話す。「学院は、新型コロナ問題のためにほとんど閉鎖になったけれど、金持ちは、月数百万ウォン(数十万円)を使って家庭教師を雇っているからね」
新型コロナ、本当にいまいましい。みんなが楽しく、平穏な暮らしに戻れる時が早く来てほしい。
(朝日新聞社 牧野愛博)